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関東大震災後の“日本人虐殺”を描いた映画『福田村事件』の衝撃

100年前に起きた関東大震災の直後、各地で虐殺事件が起きた。その史実をベースに制作された映画『福田村事件』が大きな話題を集めている。RKB毎日放送(本社・福岡市)の神戸金史解説委員長は東京で朝鮮人犠牲者追悼式典を取材する合間に、池袋の映画館で観賞していた。追悼式典と合わせ、この作品についてRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で伝えた。

映画『福田村事件』の上映始まる

映画で描かれている福田村事件は、関東大震災の直後に、福田村(現・千葉県野田市)で、香川県からの行商団15人のうち、9人が地元の自警団に虐殺されたという、実際にあった事件です。
 

朝鮮人の虐殺では、何千人かの方が殺されたのだろうという話は、先週の放送でもお伝えしました。これを否定しようとする「妄想」にかられてしまっている人が、若干でも今日本にいるのは非常に残念なことです。
 

福田村事件は、日本人が日本人を殺した事件です。関東大震災の時は、言葉がおかしければ「朝鮮人だろう」と竹槍で刺すということが、各地で繰り返されたわけですが、訛りがある地方出身者を「お前、それでも日本人か、その言葉で」と殺してしまったケースがあります。
 

福田村事件の被害者は香川県の方たちでしたが、九州や東北の人も関東で殺されています。それから、うまくしゃべれない障害者も。本当にひどい状況が、関東大震災直後の関東一円で起きていたのですが、その中の一つが福田村事件です。殺害された9人のうち、3人が幼児。1人は出産間近の妊婦でしたから「犠牲者は10人だ」という人もいます。
 

行商団を取り囲んだ村人 ©「福田村事件」プロジェクト2023

監督はオウム信者などを描いた森達也さん

この実話に基づき、劇映画として制作されたのが、『福田村事件』です。監督は森達也さん。ドキュメンタリー映画の制作でとても有名な方で、オウム真理教の信者を描きました(タイトルは『A』『A2』)。東京新聞の望月衣塑子さんに密着した映画には、実は私も出ています。ラジオ番組で、望月さんに私がインタビューしているシーンです。

※『i-新聞記者ドキュメント-』(2020年、1時間54分)
蔓延するフェイクニュースやメディアの自主規制。民主主義を踏みにじる様な官邸の横暴、忖度に走る官僚たち、そしてそれを平然と見過ごす一部を除く報道メディア。そんな中、既存メディアからは異端視されながらもさまざまな圧力にも屈せず、官邸記者会見で鋭い質問を投げかける東京新聞社会部記者・望月衣塑子。果たして彼女は特別なのか? そんな彼女を追うことで映し出される、現代日本やメディアが抱える問題点の数々。この国の民主主義は本当に形だけでいいのか、メディアはどう立ち向かうべきか。森監督の真骨頂ともいえる新たな手法で、日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体を暴きだす。

森さんは「ドキュメンタリー監督」という印象が強いので、初めての劇映画がどんなものになるのか、想像できませんでした。さらに、テーマも関東大震災後の虐殺で、変な言い方をすると、「論」を映画で見てどんな気分になるだろうか…とも考えていました。

しかし実際に観てみたら、脚本がとてもよく練られていて、「映画らしい映画」だったのでびっくりしました。本当に失礼なのですが、かなりいい映画ですよ、これは。

重層的な「群像劇」

この作品、群像劇でいろいろな人が出てきます。
 

井浦新さんが演じている「澤田」と、福岡県久留米市出身の田中麗奈さん演じる妻「静子」の夫婦が、朝鮮から福田村に帰ってきます。朝鮮で日本陸軍が行った提岩里教会事件(※)を目撃していたことが、この夫婦の間に深い溝を作っていると、だんだんわかってきます。
 

井浦新さん  ©「福田村事件」プロジェクト2023
 

※提岩里教会事件 「三・一独立運動」直後の1919年4月、ソウルの南方にある提岩里(チェアムリ)の教会に、日本の憲兵が信者20数人を閉じ込め、放火して虐殺した事件。
 

香川県の行商団15人は、被差別部落に生まれて差別に苦しんできた背景を持っています。リーダー役は、永山瑛太さん。差別に苦しみながら行商を続けているにも関わらず、一方で朝鮮人を差別する発言も出てきて、差別の重層的な面も描いています。
 

永山瑛太さん(左端)ら行商団 ©「福田村事件」プロジェクト2023
 

それから、村の女たち。コムアイさん(音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」初代ボーカル)がすごくよかったです。
 

コムアイさんと東出昌大さん ©「福田村事件」プロジェクト2023
 

当時、軍人経験者でつくる「在郷軍人会」が日本中にありました。戦時に対応できる予備軍人の育成を目的とし、軍服を着て地元で軍国主義の普及に務めていく役割です。在日2世の歌手・俳優のパギやん(趙博)という私の友人が、とても怖い日本人の在郷軍人を演じていました。在郷軍人会の中心役として出演しているのは、水道橋博士さんです。
 

軍国思想を広める役割を担った在郷軍人と村人 ©「福田村事件」プロジェクト2023
 

また、震災の直後には、軍や警察が混乱に便乗して、社会主義者や組合活動家を警察署に連れ込んで虐殺した史実(亀戸事件)があります。被害者(平沢計七)役を、こちらも私の友人であるカトウシンスケさんが演じていました。

※亀戸事件 平沢計七ら労働組合の活動家10人が陸軍に拘束され、亀戸警察署や荒川放水路で殺害された弾圧事件。

「現代の日本でも起こりうること」

非常に重層的な群像劇になっていて、最後の最後で虐殺事件に収れんしていきます。とてもよい脚本でした。池袋の映画館で私と一緒に観ていた埼玉県在住の60代夫婦に、鑑賞後インタビューしました。

神戸:ご覧になって、どんな印象を持たれました?

夫:はっきり言ってショックですね。自分の父親とか母親から、こういう話を聞いていなかったもので、こんな事件があったとは夢にも思っていなかった。

神戸:役者さんたちの演技について、感じたことがありました?

妻:すごいなと思いました。初めて映画で、本当のリアルな、日本人ぽい日本人を演じていたような気がしたような気がしたんです。涙が出てきちゃって。

神戸:現代の日本では起こりうることだと思いますか?

妻:私はあると思う。弱い人を集中的に攻撃するというのは、残っている。

夫:私もそう思います。自分の心の奥底に行くと、そういう部分が誰しもあるような気もしますし、集団になるとそういう意識はあるような気がしますね。『日本人だから』というより、人間誰しもあるような気がしています。

事件を掘り起こしたのは福岡県出身の女性

実はこの福田村事件、語り継がれることもなく、埋もれていました。それを掘り起こしたのは、千葉県在住の辻野弥生さんです。辻野さんは1941年、福岡県生まれ。結婚を機に上京し、千葉県内の地域誌や地方紙などでインタビュー記事を書いてきた方です。地元で福田村事件の聞き取りを重ね、取材を進めてきて、この事件に関する唯一の本を出版しました。それを森監督が読んで映画にしたのです。

※辻野弥生さんは映画の企画に協力し、著作の新装版『福田村事件 関東大震災 知られざる悲劇』(五月書房新社、2200円)を6月に出版しています。

「在郷軍人」と遭遇した女子大生

映画を観た後、朝鮮人殺害の現場の一つとなった荒川河川敷へ慰霊祭の取材に行きました。陸軍が多数の朝鮮人を機関銃で射殺したという日本人の目撃証言がいくつも残っている場所です。
 

ここに、映画にも出演した歌手のパギやんがいました。福田村の隣の田中村(現・千葉県柏市)から駆けつけた在郷軍人を演じ、人々を殺害する役柄でした。
 

在郷軍人役のパギやん(右から2人目) ©「福田村事件」プロジェクト2023
 

河川敷には、私のすぐ隣にとても若い女性が立っていました。慶應義塾大学1年生の白坂リサさんという方でした。
 

慰霊祭に参加した大学生・白坂リサさん

 

神戸:大学生?

白坂さん:今、大学1年生です。18歳です。

神戸:大震災の虐殺の現場ですが、こういったことに関心がある?

白坂さん:関心はあります。特に『福田村事件』を昨日ちょうど映画館で拝見して、虐殺について知って。今の松野官房長官の対応も日ごろニュースで見ていて、「ちょっと、これはあまりにもひどいな」と。

神戸:ちなみに、『福田村事件』の在郷軍人会で大きな声を出していた方は、この方(パギやん)です。

パギやん:ヒゲの悪いのがいたでしょ? 「この場になって怖気づいたか、福田村分会長!」と言って。

白坂さん:分かりました! えー! よかったです、映画。めちゃめちゃ衝撃的でした。

追悼式の場で、映画の登場人物を演じた役者さんと、前日に観たばかりという18歳の大学生との会話がいきなり成立した面白い場面でした。
 

白坂さんから「松野博一官房長官の対応がひどい」という話が出てきました。「関東大震災における朝鮮人虐殺について、政府がちゃんと調べていくべきでは」と(記者会見で)質問され、「公式の政府の記録には残っていない」と述べたことを指しています。これはあんまりですね、私も「ひどいな」と思いました。

悲惨な現場で100年後のいたわり

荒川の河川敷では、日本人と朝鮮人、様々な虐殺の目撃者の証言が、若者たちによって読み上げられていきました。

証言の朗読:江東区、労働運動家、湊七良(みなと・しちろう)。大島製鋼所の辺りに、葦の生えた湿地帯があった。その附近で、憲兵がピストルを構えてなにかを探し、追及している構えであったので、私はその憲兵に何を探しているか問うたところ、飲料水に毒を投げた鮮人がこの葦の中に逃げ込んだというのである。とうとう憲兵と自警団に追い詰められて二五、六歳の青年が頭を撃ち抜かれて無残に殺されてしまった。

目撃証言を読み上げる若者たち
 

民間の自警団も、朝鮮人とみれば片っ端から虐殺していった。これはもう、疑いの余地のない歴史的な事実で、本当に何と言っていいか……恥ずかしくて仕方がありません。
 

その現場の一つで行われた100年後の慰霊祭では、民族音楽が流れました。韓国から来た遺族、在日の方々に加えて、加害者の私たち日本人も混じり合って、歌って踊って慰霊をする、とても温かい雰囲気でした。こういったことは、とても大事だと思います。

「全力で体現した、凄まじいものが映っている」

以前この番組で、映画界で今、とても目立っている注目のバイプレーヤーとして、カトウシンスケさんを紹介しました。そのカトウさんも『福田村事件』にも出演しています。リスナーに向けてメッセージをいただきました。
 

カトウシンスケさん(中央の男性) ©「福田村事件」プロジェクト2023

カトウシンスケさん:RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』をお聴きの皆さま、俳優のカトウシンスケです。ただ今、全国のミニシアターを中心に公開中の映画『福田村事件』で、私は『亀戸事件』というまた別の事件の被害者・平沢計七という人物を演じています。

スタッフが総力を挙げて立ち上げた空気の中、僕らキャスト全員が全力で向き合い体現した、何か凄まじいものが映っているかと思います。その一つ一つの体現した人間の身体や表情を、ぜひスクリーンで観てもらえたらうれしいです。よろしくお願いします!

久留米市出身の田中麗奈さん ©「福田村事件」プロジェクト2023
 

映画『福田村事件』は、9月15日から、福岡市中央区のKBCシネマでも上映が始まります(佐賀市のシアター・シエマではすでに9月8日から上映中)。16日午後には、森達也監督と、久留米市出身の田中麗奈さんによる舞台あいさつ付き上映があるのですが、既に完売となっています。映画は大反響を呼んでいます。ぜひご覧ください。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。